鉄分が関わる5つの身体機能

鉄分というと「貧血」のイメージが強いかもしれませんが、実はそれだけではありません。ここでは、鉄分が関わる5つの身体機能を医学的な観点から解説します。

機能1:赤血球の産生(ヘモグロビンの材料)

鉄分はヘモグロビンの主要な構成成分です。ヘモグロビンは赤血球に含まれるたんぱく質で、全身に酸素を届ける役割を担っています。鉄分が不足するとヘモグロビンが十分に作られず、酸素の運搬能力が低下します。この状態が鉄欠乏性貧血です。

日本では鉄欠乏性貧血は最も多い貧血のタイプであり、特に月経のある女性や成長期の子ども、妊娠中の女性に多く見られます。

機能2:神経伝達物質の合成に関与

近年注目を集めているのが、鉄分と神経伝達物質の関係です。神経伝達物質であるセロトニンの合成酵素(トリプトファン水酸化酵素)には鉄分が補因子として必要です。また、ドーパミンの合成酵素(チロシン水酸化酵素)にも鉄分が関与しています。

鉄分が不足するとこれらの神経伝達物質の産生が低下し、気分の変動やイライラ、意欲の低下、不眠といった症状が現れることがあると報告されています。

機能3:脳への酸素供給

鉄分は脳への酸素供給を左右します。脳は体重の約2%しかないにもかかわらず、全身の酸素消費量の約20%を使う臓器です。鉄分不足によって脳への酸素供給が減ると、集中力の低下、記憶力の低下、注意力散漫といった症状が現れることがあります。

成長期の子どもの鉄分摂取も重要とされています。

機能4:毛髪の成長サイクルへの関与

鉄分は毛髪の成長サイクルにも関わっています。髪の毛は毛根にある毛乳頭細胞から栄養と酸素を受け取って成長します。この毛乳頭への酸素供給を担うのがヘモグロビンであり、鉄分不足になると毛乳頭への酸素供給が低下し、髪の成長サイクルに影響が出ることがあります。

鉄分不足の状態では、髪が細くなる、抜け毛が増えるといった変化が見られることがあります。

機能5:コラーゲン合成への関与

肌の弾力を支えるコラーゲンの合成にも、鉄分は関わっています。コラーゲンを体内で合成する際には、ビタミンCとともに鉄分が触媒として必要です。鉄分が不足するとコラーゲンの産生に影響が出ることがあります。

また、鉄分不足でヘモグロビンが減少すると、血色が悪くなることがあります。

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身体機能メカニズム鉄分不足時に起こりうること
赤血球の産生ヘモグロビンの構成成分として必要鉄欠乏性貧血(疲労感・動悸・息切れ)
神経伝達物質の合成セロトニン・ドーパミンの合成酵素の補因子気分の変動、意欲の低下
脳への酸素供給ヘモグロビンを介した酸素運搬集中力・記憶力の低下
毛髪の成長サイクル毛乳頭細胞への酸素供給抜け毛の増加、髪が細くなる
コラーゲン合成合成酵素の補因子として必要コラーゲン産生への影響

鉄分が不足するとどうなる?見逃しがちな初期症状

鉄分不足は急に症状が出るものではなく、段階的に進行するのが特徴です。まず貯蔵鉄(フェリチン)が減少し、次に血清鉄が低下し、最終的にヘモグロビンが減少して貧血に至ります。初期の段階では自覚症状が乏しく、「なんとなく調子が悪い」程度で見過ごされがちです。

以下のような症状に心当たりがある場合は、鉄分不足を疑ってみてください。

体の症状として、最も一般的なのは倦怠感・疲れやすさです。十分に睡眠を取っているのに疲れが取れない、少しの運動で息が切れるといった症状が現れます。また、動悸・息切れは体が酸素不足を補おうとして心拍数を上げるために起こります。

爪の変化も見逃しがちなサインの一つです。鉄分不足が進行すると、爪が薄くなったり割れやすくなったりし、さらに重度になると爪がスプーンのように反り返る「スプーン爪(匙状爪)」が見られることがあります。

さらに意外な症状として、無性に氷をかじりたくなる「氷食症」があります。これは鉄欠乏性貧血の患者によく見られる独特の症状で、メカニズムは完全には解明されていませんが、口腔内の温度変化への感受性の変化が関係していると考えられています。

そのほかにも、口角炎(口の端が切れる)、舌の痛み(舌炎)、抜け毛の増加、肌荒れなども鉄分不足のサインです。

特に深刻なのは、日本人女性の2人に1人が鉄不足の状態にあるという現実です。月経による定期的な出血で鉄分が失われるうえ、ダイエットによる食事制限で鉄分の摂取量が減りやすいことが原因です。成長期のティーンエイジャー、妊娠中・授乳中の女性はさらにリスクが高まります。

「自分は貧血ではないから大丈夫」と思っていても、先述の「隠れ鉄不足(潜在性鉄欠乏)」の可能性があります。気になる症状がある方は、健康診断でヘモグロビン値だけでなくフェリチン値も測定してもらうことをおすすめします。

鉄分の摂りすぎにも注意!過剰摂取のリスク

鉄分は不足すると問題になりますが、摂りすぎもまた有害です。通常の食事だけで鉄分を過剰に摂取することはほぼありませんが、サプリメントの大量摂取や鉄剤の不適切な使用によって過剰症が起こる可能性があります。

過剰な鉄分が体内に蓄積すると、鉄沈着症(ヘモクロマトーシス)と呼ばれる状態になります。鉄は肝臓、心臓、膵臓などの臓器に沈着し、臓器の機能障害を引き起こすおそれがあります。具体的には、肝機能障害、心不全、糖尿病のリスク上昇などが報告されています。

また、鉄分の過剰摂取は胃腸障害(吐き気、嘔吐、腹痛、便秘)を引き起こすことがあります。鉄サプリメントを摂取して胃が不快になるという経験をした方も少なくないでしょう。

さらに注意が必要なのが、鉄分の過剰摂取による亜鉛の吸収阻害です。鉄と亜鉛は腸管での吸収において競合関係にあるため、鉄分を大量に摂ると亜鉛の吸収が妨げられる可能性があります。

小さなお子さんがいるご家庭では、幼児の鉄剤・サプリメントの誤飲による急性中毒にも注意が必要です。鉄剤は子どもの手の届かない場所に保管してください。

鉄分の補給は、まず食事からの摂取を基本とし、サプリメントを利用する場合は用法・用量を守ることが大切です。自己判断で大量に摂取するのは避け、必要に応じて医師や管理栄養士に相談しましょう。


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