退職金を受け取る時期が近づくと、「このお金をどう使うべきか」と悩む人は多いでしょう。預金に置いておくだけでよいのか、NISAや株式投資で運用した方がよいのか、判断に迷う場面もあるはずです。

退職金は、人生後半の生活を支える大切なお金です。まとまった金額だからこそ、焦って株式投資に回すのではなく、まずは使い道ごとに分けて考えることが重要です。

退職金はすべて投資に回すお金ではない

退職金を受け取ると、今までより大きな金額が手元に入ります。そのため、「このまま預金だけではもったいない」と感じる人もいるでしょう。

まず守るべきお金を確保する

ただし、退職金のすべてを株式投資や投資信託に回すのは危険です。退職後は収入が減ることも多く、医療費や住宅費、生活費など、予定外の支出が発生する可能性もあります。

投資を考える前に、まずは生活を守るお金を確保することが大切です。

資金の種類主な使い道投資との距離感
生活防衛資金毎月の生活費、急な支出預金で確保する
近い将来使うお金医療費、住宅修繕、車、家族の支援投資に回しにくい
余裕資金当面使う予定がないお金NISAや株式投資を検討する候補

一括投資よりも時期を分ける考え方

退職金で株式投資を始めるときに注意したいのが、一度に大きな金額を投資してしまうことです。投資した直後に株価が下がると、大きな不安を感じやすくなります。

値動きに慣れる期間を作る

株式投資や投資信託は、価格が日々変動します。投資経験が少ない人が退職金の一部をまとめて投資すると、少しの値下がりでも「失敗した」と感じてしまうことがあります。

そのため、最初から大きく投資するのではなく、時期を分けて少しずつ投資する方法も選択肢になります。積立投資を使えば、一定額を定期的に投資しやすくなります。

  • 一度に大きく買わない
  • 数回に分けて投資する
  • 積立投資も検討する
  • 値下がりしても慌てない金額にする

NISAを使う場合も金額を決めておく

NISAは、投資で得た利益が非課税になる制度です。退職金をきっかけにNISA口座を検討する人もいるでしょう。つみたて投資枠や成長投資枠を使って、投資信託や上場株式などを購入できます。

非課税枠を埋めることが目的ではない

ここで注意したいのは、NISAの枠を使い切ることを目的にしないことです。制度として投資できる枠があっても、自分の生活に合わない金額を投資する必要はありません。

退職金は、老後の生活を支えるお金でもあります。NISAを使う場合も、「いくらまでなら投資しても生活に影響が出にくいか」を先に決めることが大切です。

個別株・高配当株に退職金を集中させない

退職金で株式投資を考える人の中には、高配当株に関心を持つ人もいます。配当金が定期的に入る可能性があるため、老後資金の補助として魅力的に見えるからです。

配当金にもリスクがある

しかし、高配当株は必ず安全とは限りません。企業の業績が悪化すれば配当金が減ることがあります。さらに、株価が下がれば、受け取った配当以上に評価損が大きくなる可能性もあります。

退職金のような大切なお金を、特定の個別株や高配当株に集中させるのは避けたいところです。投資信託なども含めて、分散する考え方を持つことが大切です。

証券口座を見る前に考えたいチェック項目

証券口座を開く前に、次のような点を確認しておくと、投資金額や商品選びで迷いにくくなります。

  • 退職後の毎月の生活費はいくらか
  • 医療費や住宅費の予備費を確保しているか
  • 投資に回せる余裕資金はいくらか
  • 一括投資ではなく分けて投資できるか
  • NISAを使う目的が決まっているか
  • 個別株と投資信託のバランスを考えているか

退職金は「増やす前に守る」お金

退職金で株式投資を始めること自体が悪いわけではありません。預金だけでは不安を感じる人にとって、NISAや株式投資、投資信託を知ることは大切な選択肢になります。

しかし、退職金は大きく増やすためだけのお金ではありません。退職後の生活を支え、急な支出に備え、安心して暮らすためのお金でもあります。

まずは守るお金を分け、そのうえで当面使わない余裕資金の一部を投資候補として考える。この順番を守ることで、50代以降の株式投資は無理のない形に近づきます。

投資には価格変動リスクがあり、元本割れの可能性があります。退職金を一度に大きく投資するのではなく、生活資金を確保したうえで、少額・分散・中長期の視点を持って検討しましょう。

出典:金融庁 資産形成の基本/金融庁 NISAを知る/J-FLEC 金融・証券用語集 収益性